まずは「缶バッジ(缶バッチ)」って何?
小さくて軽くて、カバンや帽子、洋服にもワンポイントでつけられるアイテム「缶バッジ」。最近は“推し活グッズ”としても人気ですが、「そもそも缶バッジって何?」と聞かれると、意外と説明できないかもしれません。
今回は、そんな缶バッジについて、基本からやさしく紹介していきます。

缶バッジとは?そもそも何?
缶バッジ※とは、金属製のプレートにイラストや写真を印刷し、裏にピンをつけて留められる小さなアクセサリーです。正式には「ピンバッジ」「ボタンバッジ」など、英語では「Button Badge」や「Pinback Button」と呼ばれています。
表面は光沢のあるフィルムで保護されており、印刷されたデザインがキズや水濡れに強くなっています。
主なサイズは25mm・32mm・44mm・57mmなどがあり、用途によって使い分けられます。最近ではハート型や星型など、ちょっと変わった形の缶バッジも人気です。
近年は、アニメ・ゲーム・アイドル・アーティストなど、あらゆるジャンルのグッズとして定番化し、コレクションやファッションの一部としても楽しまれています。
※「缶バッジ」と「缶バッチ」どっちが正しい?その違いと由来は?
※缶バッジにはどんな種類がある?定番から人気の仕様まで一挙紹介!
缶バッジの歴史って、意外と古い?
そんな缶バッジですが、
- いつから存在しているの?
- 誰が作りはじめたの?
- 昔の缶バッジってどんなもの?
こんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
以下に、缶バッジにどんな歴史があるのか、ご紹介します。
缶バッジの歴史をたどってみよう
※以下の記述には諸説あり、すべての歴史的事実を網羅・保証するものではありません。あくまで代表的な事例や逸話をもとにしたご紹介です。
▸ 起源は18世紀アメリカ?
缶バッジのルーツについては明確な定義はありませんが、一説には1789年のアメリカで、ジョージ・ワシントンの大統領就任を記念して、支持者が身につけた真鍮製の記章が「前身」と言われています。
これらは、現在の缶バッジというより「メダル」や「ボタン」「トークン」に近いものでしたが、胸に付けて「何かを表す」アイテムとしての原型にあたると考えられています。
▸ 「選挙キャンペーンの道具」として進化
1824年にはジョン・クインシー・アダムスの選挙活動で、初めて選挙キャンペーンの一環としてバッジが使用されたという説もあります。
1860年のエイブラハム・リンカーンの選挙では、顔写真入りのペンダント型バッジが登場した記録も残っており、デザイン性や宣伝の意味が強まりつつあったことがうかがえます。
▸ 現代缶バッジの原型とされる発明
技術的な進化もありました。
- 1869年:ジョン・ウェスリー・ハイアットがセルロイド製造の特許を取得。透明フィルムで印刷面を保護する技術が登場。
- 1893年:セルロイドを用いた写真保護式のバッジが特許化。
- 1896年:アメリカのホワイトヘッド&ホーグ社が、裏にピンをつけて衣服に留められる形式のバッジを開発(米国特許US564356)。
この1896年の特許が、今日私たちが使っている缶バッジの形の原点だと考えられています。
戦争と平和の象徴として使われた缶バッジ
缶バッジは、その時代ごとにさまざまな社会的メッセージの媒体として使われてきました。
- ボーア戦争(1899–1902):イギリスで愛国的なメッセージ入りバッジが配布され、国民の士気を高めるために活用。
- 1907年頃のインド独立運動(ガンジー主導):キャンペーンの一部としてバッジが用いられたという記録も。
- ベトナム戦争と反戦運動:アメリカ国内で「ピースマーク」の缶バッジが象徴的存在に。反戦の声を象徴するアイコンとして多くの若者が身につけました。

エンタメと缶バッジ:人気キャラ・音楽とともに
▸ 漫画キャラ「The Yellow Kid」
1898年、アメリカの人気漫画「The Yellow Kid」の缶バッジがチューインガムの景品として配布され、子どもたちの間で大流行。これが商業的なバッジブームのはじまりのひとつと考えられています。
▸ シリアルのおまけに缶バッジ
1945年、ケロッグ社がシリアル商品に缶バッジを同封したプロモーションを実施。キャラクターごとのバッジをコレクションする文化が生まれ、後のアニメやゲームの「推し缶バッジ」文化にもつながっていきます。
音楽と缶バッジ:ロックとともに歩んだ進化
缶バッジが「カルチャーの象徴」として進化したのは、音楽と結びついた時でした。
▸ ビートルズと非公式バッジ文化
1960年代のビートルズ人気は、缶バッジにも波及。
公式グッズではなく、非公認のファングッズとして、世界中でビートルズの顔写真やロゴが入ったバッジが作られました。
初期のバッジは粗末なものも多く、まさにファンの“手作り”文化から生まれた存在です。
この流れが、音楽ファンによるバッジの収集・着用というスタイルを確立させていきました。
▸ ジョン・レノンと缶バッジ──「メッセージを伝える道具」として
ビートルズの元メンバーであるジョン・レノンは、缶バッジをただのファングッズとしてではなく、「平和を願うメッセージの媒体」として身につけたアーティストの一人でした。
1969年、ジョンとオノ・ヨーコの世界に向けた反戦メッセージして、平和スローガンを載せた缶バッジやポスターの配布にも使われました。缶バッジはここで、音楽と政治、そして希望をつなぐ「小さな伝達装置」としての役割を果たすことになります。
ジョン・レノンは缶バッジを“ファッション”ではなく、“想いを伝えるメディア”として着用した数少ないロックスターでした。
▸ パンク・ロックと缶バッジの黄金時代
1970年代後半、ロンドンのパンク・ロックシーンにおいて、缶バッジは自己表現の最前線に躍り出ます。
中でも有名なのが、セックス・ピストルズ。
彼らの過激で反体制的な音楽とメッセージを象徴するような缶バッジが、ストリートファッションの必須アイテムとして人気を集めました。
当時のロンドンでは「Better Badges」という缶バッジ製作会社が存在し、パンク・バンドのプロモーション用バッジを25mmサイズで大量生産。これが音楽グッズとしての缶バッジの黄金フォーマットを生み出しました。
このように、ジョン・レノンを含む音楽界のスターたちは、缶バッジをメディアとして活用し、「アート・カルチャー・政治・平和」のすべてをひとつの小さな丸い缶の中に詰め込んだといえるでしょう。

日本における缶バッジの歩み
日本では、1970年代頃からアメリカ企業の販促ノベルティとして缶バッジが流入。食品や飲料、たばこ製品のキャンペーンに使われました。
- 1980年代:原宿・渋谷で「お名前缶バッジ」がブームに。ひらがなで名前が書かれた缶バッジを街で見かけることが増えました。
- イベント・展示会:万博や大型展示で、企業ロゴ入りの缶バッジが多数配布。
- 2000年代以降:アニメ・ゲーム・キャラクターの缶バッジが一大ブームに。
推し活のマストアイテムとして人気を集めています。
おわりに~缶バッジは「想いを託す」小さなメディア
缶バッジは、時代や文化を映し出す小さな円いメディア。
缶バッジは、もともと政治や戦争のメッセージを伝えるものでしたが、「小さなメッセージのメディア」として200年以上の歴史を歩んできました。いつの時代も、缶バッジは人の気持ちを身につける道具として進化してきました。
ビートルズのファン愛も、セックス・ピストルズの過激な精神も、アニメキャラのかわいさも、
すべてこの「小さな円い世界」に宿るのです。
あなたの想いを缶バッジに…それは、時代を超えて続くひとつの表現方法です。
戦争や平和、音楽や遊び、アニメやファン文化…
どんな時代でも、人の“想い”や“推し”を表現するために使われてきたのです。
今もなお進化し続ける缶バッジ。
缶バッジの楽しみ方は無限大。カバンにつけたり、壁に飾ったり、缶バッジだけで“推しボード”を作る人もいます。
そして今、Kiyoにゃんやふうせん地蔵さまのような、新しいオリジナルキャラクター缶バッジも次々と登場中。
缶バッジは、小さな丸い宇宙。あなたの「好き」をぎゅっと詰め込める、そんな不思議なアイテムなのです。
